update : 2023.09.01
中央自動車道・恵那インターチェンジからおよそ15分。緑豊かな風景に囲まれた一本道を集落に向かって
進んでいくと、その入り口に大橋酒造があります。
重厚な木造建築は町の風景にしっくり溶け込み、笠置山を背景としたその佇まいは、まるで一枚の絵ハガ
キのよう。
「こんにちはー。」中に入ると
土間に置かれた一枚板の長テーブル、周りには手編みの座布団が敷かれた幾つかの丸椅子、カウンターには
サンデシ(300㎖)の冷酒を冷やした卓上型冷蔵庫。昭和レトロな温かい趣きを残す店先、「あ、いつもの
お酒お願いします」という来店者とのやりとりに、「蔵元」であり、頼れる「地元の酒屋さん」であると
いう矜持を感じました。
大橋酒造は明治41年創業、今年で115年を迎えます。
歴史を感じさせる木造建築は、笠置山の向こう側にあった大庄屋の建物を移築したとのこと。
11代続いた大庄屋の屋敷を、三分の一をここに、三分の一を恵那に、三分の一を中津川に移築しました。
今の杜氏(5代目・現社長)が酒造りを始めたのは、24歳の時。
当時新潟から来てもらっていた杜氏(寺泊出身)から酒造りを学び、共に酒造りや酒質の向上を研究されたそうです。
神谷 :私が初めて「吟醸 一番搾り」を飲んだのはもう30年も前のことですが、当時にしては随分
洗練された味でした。「うすにごり」というスタイルも走りでしたね。
大橋社長:ありがとうございます。当時の新潟杜氏はとても研究熱心な人でしてね。酒造りを日々研究
し、試行錯誤していろいろなお酒をつくっていました。またそうした酒を鑑評会に出したり
してね。そして、当時から心白が大きい山田錦に匹敵するようなお米を作ろうと何度もトライ
しました。残念ながら、途中でやめてしまいましたが…。
神谷 :(店に置かれた樽を見て)「エビス正宗」というお酒も造っていらっしゃったんですか。
大橋社長:ええ、昭和初期の頃は「エビス正宗」が主流でした。
今はSAPPORO(ビールメーカー)が「エビス」を商標登録しているので使えませんが…。
神谷 :あちらにビワの食前酢がありますね。ヴィネガーも昔からつくられていたんですか。
大橋社長:ヴィネガーは14年前からです。兄が知多に住んでいて、ビワがたくさん採れるんですよ。
これを何とか商品にと思いまして、農商工連携で食前酢をつくりを始めました。
これがなかなか評判がいいんですよ。
神谷 :ビワのヴィネガーは珍しいですね。
大橋社長:ビワの葉は昔から民間療法として使われてきましたが、実にさまざまな栄養素が含まれて
いて体にいいんで、ぜひ飲んでみてください。
神谷 :はい。ぜひ。
神谷 :今は社長さんお一人でお酒をつくられているんですか。
大橋社長:家内と一緒につくっています。
神谷 :酒造りを行う上で、何か大切にしていることがありますか。
大橋社長:皆さんもご存じの通り、酒は米を原料としています。米は八十八回、人の手が入っています。
人が育てます。酒造りも同じように、まず人なんです。人の手が入ってこそ、いい酒ができる。
丁寧なつくりができる。「酒の味は人の味」というのが弊社のモットーです。
神谷 :丁寧に造られているからこそ、御自身のスタンダード(基準)に合ったお酒ができるのです
ね。
搾りは八重垣。今どき珍しい。
神谷 :仕込み水は?
大橋社長:ここは御影石(みかげいし)の産地で「御影(みかげ)地下水」と呼ばれる軟水を使ってい
ます。とても柔らかい水で、おかげでいい酒ができます。
神谷 :原料米は何を使われていますか。吟醸は山田錦ですか。
大橋社長:いいえ、うちは「ヒダホマレ」だけです。
吟醸もヒダホマレを50%まで磨いてつくっています。
神谷 :そうですか。ヒダホマレを使っても、あれだけすっきりした味わいのお酒ができるのですね。
大橋酒造の酒は新潟杜氏の技を受け継ぎ、手造りで丁寧につくられた酒です。
夏のおすすめは、やはり生酒です。生酒は本醸造と吟醸があります。
吟醸はさらっとして飲みやすいですが、個人的には本醸造の生酒が好きです。やや辛口ながらまるみが
あり、喉を通ったあと微かに甘みが残ります。どんな料理にも合うので、夏の暑い時期におすすめです。
【代表銘柄のご紹介】
笠置鶴純米 越後杜氏の技、素材の味を最大限に引き出したコクとまろみのある自然酒。
地元米のヒダホマレを使用。
笠置鶴本醸造 清純で奥深い味わいと、キリッと締まった後味。どんな料理にも合います。
笠置鶴吟醸 艶やかな香り、すっきりとした味わい。香りと味のバランスが絶妙。冷やでも
燗でもいけます。
神谷 :ここ蛭川は緑豊かで良いところですね。蛭川について教えていただけますか。
大橋社長:蛭川村は松茸の産地でもあるんです。9月下旬から11月上旬まで香り高く上等な松茸が収穫
でき、蛭川村の各温泉宿で松茸料理も提供されます。うちの酒はそれに合う酒だと自負して
います。
また絶滅危惧種に指定された「ヒトツバタゴ」という白い花も咲きます。蛭川村の春の名物
です。この花は長崎県の対馬市と岐阜県・愛知県の木曽川流域のみに生息するもので、この
花を楽しむためのお祭りも5月に開催されます。
「杵振り祭り」は一番有名です。この日は大勢の見物客でごった返します。
テレビ中継もされますよ。
お店のウインドウの傍らに、色鮮やかな杵振り祭りの笠が置いてありました。
ユニークな形をした笠を被り、杵を振りながら踊り歩く。来年はぜひ見に行きたいものです。
大橋酒造では12月初旬に一番最初のお酒ができます。
この時に限定発売されるのが「吟醸 一番搾り」(初花)。うすにごりの吟醸生酒です。
吟醸ならではの軽いすっきりとした味わいとオリの甘味が絶妙なハーモニーを奏でます。
一升瓶であってもその口当たりの良さで、手が止まらなくなるほど心地よい酒です。
今年は久々に当店に登場いたします。乞うご期待を!
Company Profile