update : 2022.07.17
琴塚古墳の近く「金華山」の醸造元『足立酒造場』を
訪問してきました。
第一印象は「Passionate!」-「情熱的」という言葉がこれほど似合う人はそういないでしょう。
蔵のこと、自身のこと、酒を取り巻く環境のこと、SDGsを目指す社会の中でのあるべき姿についてなど
多岐にわたり、社長さんの想いを熱く語ってくださいました。
神谷:こんにちは、今日はよろしくお願い致します。
― よろしくお願いします。
神谷:まず「足立酒造場」さんについてお伺いしたいのですが、いつ頃から酒造りを始められたのですか。
― 創業は1861年(江戸末期)です。私で5代目です。
神谷:長い歴史があるのですね。蔵の正面に「玉鶴」と「日の出鶴」の看板がありましたが…。
― もともと造っていたのは「玉鶴」でした。昭和に入り、めでたい「日の出」と「鶴」を合わせて「日の出鶴」と
命名しました。その後、特定名称酒に注力するにあたり岐阜のシンボルであるよう「金華山」と名付けました。
神谷:「金華山」はどんなお酒ですか。
― 元祖、「オール岐阜の酒」です。
神谷:と言いますと。
― 「金華山」をつくり始めた時から、岐阜県産の米(ひだほまれ)・水・酵母のみを使用しています。
神谷:岐阜県産の「ひだほまれ」を使用する理由がありますか。
― まずは岐阜の酒なので、岐阜の素材を使いたいという思いがあります。地産地消です。
また「ひだほまれ」は高精白でも味がのりやすいので、アルコール添加しなくても、酸と旨味のバランスが
とれたいいお酒に仕上がります。(神谷:それはきっと社長さんの腕です!)
後は、県外のお米だと状況により供給が安定しないので、県内で賄いたいという理由もあります。
神谷:そうですか。社長さんはいち早く地産地消を取り入れた酒造りを行っていたんですね。
神谷:蔵元という環境にあって、将来は自分が酒を造るんだ、という意識はいつぐらいから芽生え始めたのですか。
― 東京農大は出ていますが、正直なところ、その頃は私自身が蔵に入ることは考えていませんでした。
ですから、一般企業に就職しました。(宝酒造)
神谷:では、なぜ酒造りにかかわることになったのですか。
― うちは昔は越後杜氏を招いて酒造りを行っていました。ところが杜氏の体調が良くないから「帰ってこい」と
言われて…。しかも帰ってくる1年前に杜氏が亡くなってしまい、杜氏のもとで働いていた頭(かしら)と
二人で酒造りを始めたんです。
神谷:それはいつ頃ですか。
― 今から27年前ですね。当時は仕込み量も多く規模も大きかったんですが、これを機に思い切って出稼ぎの蔵人に
頼らない酒造りをしようと決めて、自分一人で純米酒だけをつくる小仕込みに変えました。
今はこのスペースだけで酒を造ってるんですよ。
神谷:実際に作業する中で苦労した点や逆に一人で作業することのメリットはありますか。
― そうですね、初めは苦労しました。杜氏は長年の経験で、いろいろなことを知っている。理論と実際のズレが
生じてもそれを修正することができる。僕は酒造りの方法は知っていても経験値が不足している分、いろいろ
苦労がありました。酒造りは温度の違いなど些細なことで大きな影響が出ます。ですから、特に中小で手造り
で酒造りを行っている蔵は、経験が物を言います。
メリットは、自分の予定に合わせて、多少予定を動かせることですかね。
大手になると誰か一人でも欠けると作業が出来なくなることが多いですから。
神谷:お酒をつくる際のこだわりは何ですか。
― 最近はトレンドとして飲みやすいものが多く出てるけど、僕は「ちびちび飲めるお酒」をつくりたいと思って
います。
神谷:ちびちび?
― そう。味を濃い目にして酸と旨味のバランスを追求したお酒。ぐびぐび飲めてしまうものじゃなくて、ねかせて
楽しんだり、女性でも少量をちびちび飲んで楽しんでもらえるものをつくっています。
神谷:確かに「金華山」は特徴あるお酒ですね。そこが「金華山」の魅力、はまる人も増えてます。
酒造りを酛立てから搾り、瓶詰めまで一人されている足立社長。
とはいえ、決して手を抜くことはしません。あくまでも丁寧に作業を行います。
洗米も10キロずつ袋に入れて手洗い。仕込みを始めるタイミングも(たとえ新酒の発売時期が遅れようとも)
蔵内がこの温度になってから、と決めて行っているそうです。
一人だから、大手のように追われることがないから、じっくりと向き合い、自分が求める酒を造る。
そう語る一言一言が、とても熱く心に刺さりました。
世の中の情勢を見据え、社長さんのお考えを話してくださいました。
―コロナで酒販業界っていうのは、大きな打撃を受けて、そして資材もどんどん値上がりしています。
ボイラーの燃料も上がり、電気代も高くなってきている。その煽りを蔵元はもろに受けているわけですよ。
でも、消費者のために蔵元は企業努力で頑張っている。
しかし、現実にはなかなか厳しいものがあります。行政にもっと蔵元をサポートしてもらいたいと思います。
それから、容器改革をしたほうがいいんじゃないかな。
日本酒は瓶というイメージがあるでしょ。そこからそろそろ脱却してもいいと思う。
瓶は重いから、運搬の面でも物流のコストの点でも負担が大きい。
僕は利便性の点から、瓶からペットボトルに容器を変えてもいいと思うんだけど。
神谷:でもプラスチックごみは、今大きな問題になっていますよね。
ープラスチックやペットボトルのリサイクルにお金を回せばいいんじゃないかな。
今は回収した瓶を洗浄し消毒して使っているけど、何度も繰り返すとどうしても傷がついてくる。
ゴミで出される瓶のほうが状態がいいわけですよ。でもこれはごみ処理場で粉々に割られてしまうわけでしょ。
ごみに出される状態のいい瓶を回収して使えるようにするとか、そこに使う費用をプラスチックやペットボトル
のリサイクルに回した方が有効なんじゃないかな。本当の意味でエコのものに、お金を使ったほうがいいと思う。
ーそれからね。僕が昔から言ってる岐阜改造計画っていうのがあってね……、といろいろ話してくださいました。
蔵元は「できる限りいいものを」と思い、酒造りを行っています。
またより良い酒質を求めて、日々研鑽を重ねています。
日本酒は単なる嗜好品だと考えるかもしれませんが、古来「口嚙み酒」から続いてきた日本の伝統文化でもあります。
私はそれを代々継承して手造りで酒造りを行っている杜氏さんたちは無形文化財に値すると思います。
ですから蔵元を守るために、「文化」としての日本酒造りを継承していくためにも、行政はもっと手を差し伸べても
いいのではないか、と社長さんの話を聞いて思いました。(個人的な意見です)
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