蔵元紹介 揖斐川町 所酒造合資会社 イメージ

update : 2025.04.22

白山山地の冠山を源流とする揖斐川の最上流地域、揖斐川町。

濃尾平野の北西に位置し、かつては米の生産が豊かな天領でもありました。

陣屋町として栄えた三輪地区に、代表銘柄「房島屋」を醸す所酒造合資会社があります。

「所酒造合資会社」とは


所酒造の創業は明治初頭に遡(さかのぼ)り、現在は5代目である所優氏が社長兼杜氏を務めています。

毎年10月から4月末まで仕込みを行っており、年間150石を醸す蔵元です。

蔵は創業当時のままの姿を残し、蔵人とともに「社長自らが飲んで美味い酒」をコンセプトに酒造りを行っています。

出荷は岐阜県内にとどまらず全国各地に取扱店があり、「房島屋」は多くの人に愛飲され、支持されています。

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Ask to 所 社長


今年の3月に岐阜駅前で行われた「第8回 岐阜の地酒で乾杯」を機に、所酒造とご縁をいただきました。

私が興味を抱いたことをお尋ねすると、所社長は一つ一つ丁寧に教えてくださいました。

神谷:早速なんですが、所社長はなぜ酒造りの道へ進まれたのですか。

社長:私は所家の長男ですから、もともと蔵に入るのは決まっていたんです。

   それで大学で発酵を学び、その後は「梅錦」さんへ修行に行きました。

神谷:へえ、そうなんですか。確か「梅錦」さんは愛媛の蔵元ですよね?

   「梅錦」さんには、どのくらい行かれたのですか。

社長:「梅錦」さんに在籍したのは4年間です。

   そこはうちと違って吟醸造りがメインでしたから、「吟醸もおいしいんだな」って、そのとき

   初めて思いました。

   自分の中の酒のイメージが広がったのを今でも鮮明に覚えています。

神谷:そうですか。「梅錦」さんは随分前から、吟醸造りを手掛けていたんですね。

   ところで、所酒造といえば「房島屋」を思い浮かべるんですが、もともとはどんなお酒を造っていたんですか。

社長:うちは祖父の代に「桜千代の春」、父の代に「揖斐の蔵」という銘柄があり、それをメインに造っていました。

   これは普通アル添酒(醸造用アルコールを添加した普通酒)なんですが、

   これもとても美味しいんですよ。今も継続して販売しています。

   僕が「梅錦」さんから揖斐に帰ってきたのが1999年で、

   翌年2000年に「房島屋」をメインブランドとして立ち上げました。

神谷:そうだったんですね。なぜ「房島屋」としたんですか?

社長:「房島」は、もともと地区の名前なんです。

   この地で「自分で飲んで美味い酒を造りたい」って思いがありましたから、「房島屋」と名付けました。

神谷:そうなんですね。今は「房島屋」だけしか造ってないんですか。

社長:いや、今も祖父・父が造ってきた「桜千代の春」・「揖斐の蔵」も並列して造っています。

「房島屋」について

神谷:「房島屋」は、どんなお酒ですか?

社長:「房島屋」には3つの大きなテーマがあります。

   第一に「骨太」であり、

   第二に「酸」がある。

   そして第三に「うま味」のある酒を目指しています。

神谷:なるほど、それが「所酒造」の追求する味なんですね。

   ところで、この「房島屋」のラベルは、どなたが書かれたものなんでしょうか。

社長:ああ、これは僕の書道の先生が書いてくれたものなんです。

   「房島屋」のイメージにぴったりなので、とても気に入っています。

神谷:確かに、お酒のイメージとぴったりですね。

   次に、「造り」について教えてください。お酒に使う水はどんな水ですか?

社長:揖斐川水系の水です。

神谷:『揖斐川水系』の水は『長良川水系』の水と比べて、大きな違いがありますか?

社長:うーん、大きく変わることはないかな。水の印象はサラっとしているし、使いやすいです。

   専門家に調べてもらったときは、ミネラルを含む軟水という結果でした。

神谷:そうですか、酒造りにはよい条件ですね。ありがとうございます。

   次に、米について教えてください。どんな米を使っているんですか?

社長:使用米は、福井県の五百万石が全体の7割を占めています。

   その中で65%精米が約5割、60%精米以下が2割です。

神谷:へえ、65%の精米って珍しい気もしますが理由はあるのですか?

社長:60%まで磨くと、求める味にはちょっと物足りないんだよね。70%だと雑味が出てしまう可能性もあるし。

   ちょうどいいラインを探して、65%に決めました。

   他に、雄町やひだほまれ、吟吹雪を使ったりしてますけど、やっぱり五百万石が使いやすい

   印象があります。。

神谷:そうですか。

社長:これから洗米をするから、見に行く?

神谷:はい、よろしくお願いします。

福井県産の五百万石(精米歩合65%)

社長:これは福井県産の五百万石です。

   近年キレイなお酒が出来る蔵って多いよね? 今は洗米器を使う蔵も多いみたいで。

   洗米器は、キレイな印象のお酒が出来る一つの理由だと思うんだけど、

   洗米器を使うと、個人的には洗いすぎるというか、キレイになりすぎるんだよね。(笑)

   だから僕は自分で洗う。

   

社長:洗米はこんな感じ。15回、水を変えて30回。これを2セットするんです。

   あとは浸漬して、明日の蒸しに備える。

神谷:あのう、浸漬したあとのお米を見せてもらってもいいですか?

社長:いいですよ。これが吸水したあとの酒米。

   慣れてくると見た感じでどれくらい吸ってるか、わかるようになります。

神谷:わー、キレイですね。これでどのくらい水を吸っているんですか?

社長:吸水率は30.5%ぐらいかな。

神谷:「浸漬」も酒造りの大切なプロセスだと聞いたことがあります。「浸漬」も繊細で、気を遣う仕事の一つですよね。

   次に、酵母について教えてください。どんな酵母を使っていますか。

社長:今メインで使っている酵母は7号です。

神谷:7号というと真澄酵母ですか? 7号酵母は発酵力が強く華やかな香りが特徴みたいですが、

   なぜ7号酵母を選定されたんですか?

社長:それは「酸味」をしっかり表現したいという思いがあるからです。

   だから、僕が使う酵母は、酸が出やすいものに寄ってくるかな。

神谷:酸度を大切にするのは、食事との相性からですか?

社長:その通りです!

   「房島屋」のコンセプトの一つでもある「現代の料理に合う食中酒」を目指すためです。

   もちろん、お酒単体で楽しむのも悪くないですが、皆さんの食卓に寄り添えるような酒でありたいと思っています。

神谷:なるほど、原材料をしっかり選定することから、「房島屋」の酒造りが始まっているのですね。

酒造りの楽しさ


神谷:酒造りで「一番楽しい瞬間」って、どんなときですか?

社長:そうですねー、酒造りの過程においては、常に発見や驚きがあるんです。

   酒って常に同じものは造れないんですよ、教科書通りに進むのなんて、ほとんどなくて。

   だからこそ、仕込みを進めるうえで「新しい発見や驚きがある」のが一番楽しいと思える瞬間ですね。

神谷:数値が思ったように進まない時は、手を加えたりするのですか?

社長:いや、あまり手を加えないです。

   酵母の働きに任せています、不思議なことに最終的には何とかなるので。

   それに、自分の中では「毎年違ってもいい」という思いがあるし。それも面白いでしょ?

   今の時代はそういった考えも消費者は受け止めてくれるだろうと考えています。

神谷:なるほど、そうですね。「手造り」の酒を毎年味わうって、うれしいことだし、贅沢なことですね。

   ところで、「房島屋」の半数以上は「無濾過生」で「おり」が残っていることも多いと聞きます。

社長:それは意図的です。お米の旨みを存分に引き出した味を楽しんでほしいから、そうしています。

   だから、搾った後はほとんど手を加えない方法をとってるんですよ。

神谷:なるほど。社長のこだわりが「房島屋」のおいしさに繋がっているんですね。

房島屋のこれから


神谷:僭越ながら、社長のこれからの目標を教えてください。

社長:目標ですか。のれんを守りたいという思いも勿論あります。

   でも何より「自分が飲んで美味い酒」を造り続けることかな。

神谷:そうですか。社長にとって「美味い酒」とは、どんな酒ですか?

社長:難しい質問だよねー。それは年齢によって変わるから。

   若い時は「やっぱ生原酒だな」って思ってたけど、ある程度年を重ねてくると「お燗もいいな」

   って思えてくる。

神谷:確かに、年を取るにつれて味覚は変わってきますもんね。

社長:話変わりますが、僕は「日本酒の幅の広さ」をお客様に知ってもらいたいと思っています。

神谷:幅の広さですか?

社長:例えばだけど、無濾過生原酒って冷やで飲む?燗で飲む?

神谷:冷やじゃないですか?

社長:そうだよね。一般的には生原酒って冷やなんだけど、お燗にすることで新しい発見もあるんだよ。

神谷:へえー、無濾過原酒をお燗に?

社長:飲み方の工夫で同じお酒でも色んな表情を見せてくれるんだよね。それをぜひ試してほしいと思う。

   僕が「梅錦」さんにいたとき、地ビールを販売してたんだけど、

   ビールって注ぎ方で味が完成するじゃないですか。日本酒も同じだな!って思ったんです。

神谷:日本酒も同じ?

社長:要は、「味を完成させるのはお客様だ」ということ。

   ぼくたちは、いろんなお酒を造る。

   どんな温度で飲もうと、どんな食材と合わせようと、それはお客様次第。

   だから、いろいろな飲み方や合わせ方をして「日本酒の幅の広さ」を知ってもらいたいと思います。

   今の時代だからこそ、「多様性」を大切にしてほしいんです!

神谷:大変勉強になりました。ありがとうございます。

所社長おすすめの1本

神谷:「房島屋」といえばコレ!というお酒を紹介していただけませんか。

社長:はい、わかりました。

   そうですね。はじめて房島屋を飲んでいただけるなら、

   ①房島屋 純米無濾過生原酒

   ②房島屋 純米超辛口一回火入れ

   の2つはぜひ押さえていただきたいです。

   生原酒は、酸味がしっかり出ており、旨みもある。

   火入れは、骨太な印象があり、旨みもある。

   冷でも燗でも飲めますから、ぜひ「房島屋」らしい味を楽しんでほしいです。

   またこれらのお酒は加水をしていない原酒です。アルコールも高く、酸もしっかりしているので

   数年単位で熟成が可能ですよ。ぜひ、お試しください。

神谷:ありがとうございます。

   お忙しい中いろいろとお聞かせ頂き、本当にありがとうございました。

揖斐祭り


揖斐祭りの歴史は、江戸時代享保年間に始まったとされ、三輪神社の祭礼で300余りの伝統があります。

毎年5月4日・5日の2日間開催され、勇壮な神輿渡御や豪華絢爛な5輌の芸やまが三輪神社境内に曳き揃えられます。

また、その芸やまの舞台で演じられる子ども歌舞伎は、毎年多くの観客を魅了しています。

編集後記

「房島屋」代表所優氏が目指すのは「自分が飲んで美味い酒」。

自分が飲んで納得できる酒だからこそ、自信を持ってお客様にお薦めできるのだとお聞きし、社長のこだわりと思い、

そして自信が込められた酒であると理解しました。

伝統を守りながら、「多様性」を大切にする社長の柔軟な考えに深く共感し、酒の幅の広さを探りたくなりました。

日本酒には大きな可能性があります。

そして本年、「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に指定されたように、次世代へと継承されていくべきものです。

私達も日本酒の可能性を探りながら、そのおいしさ・おもしろさを次世代に伝えてみませんか。

日本酒を楽しみましょう!

                                           (神谷高旭)          

                                             

執筆・編集:樽綱本店 神谷高旭

取材協力 :所酒造合資会社

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